「かれん」 安達千夏

かれんかれん

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-26
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内容(「BOOK」データベースより)
札幌のラジオ局からフリーアナウンサーとして上京してきた稲葉雪乃にある時、奇妙な仕事が舞いこんだ。依頼者は地図製作会社の社長・葛木晋一郎。雪乃に亡き妻・千勢の身代わりを演じてほしいという。記憶が3年前に遡ってしまった義父が死の床にあり、視力も衰えているため、千勢と声が似ている雪乃に白羽の矢が立ったのだ。雪乃は、神田川を挟んで此岸と彼岸を行き来するような生活を開始した。だが直後、雪乃の前に五十嵐と名乗る謎の男が現れた。五十嵐は千勢のかつての恋人であり、雪乃の心をざわめかせ始める…。愛する者を失った男たちと、東京でひとり働く女の孤独と再生とは?ベストセラー恋愛小説『モルヒネ』の著者が、ふたたび生と死、そして愛を問う書き下ろし長編。

昨年書評家の藤田香織さんのおすすめで知った安達さん。最新刊の「ちりかんすずらん」がよかったので(まだブログ記事書いてませんが…)、この作品もきっと!と。過去のがっかり経験も多いので、期待するのはキケンと思いつつも手にとってみました。で、結果。
正解でした。
とてもよかったです。

内容は上記のとおり。
主要な登場人物のほぼ全員が、なんらかの喪失体験から立ち直れずにいます。男性陣は千勢(父であるとか夫であるとか立場はさまざまですが)だし、雪乃は過去、カレンという名の姉を喪っている。
…両者とも、突然の事故という取り返しのつかない形で。
彼らはそれぞれ、後悔をしつづけています。あの時ああすればよかったんではないか。こうしてれば助かったんではないか。今さらどうにもならないことで、どうにもならないからこそ苦しみ続けている。

この物語はその後悔からの、苦しみからの再生を描いていますが、それが絶妙でした。
喪失と再生をテーマとした作品は好んで読むほうですが、その中でも、特に恋愛がらみの話の中ではトップクラスなんじゃないかと感じました。

恋愛小説というわけではないので、そのへんの描写は控え目ですが。千勢の夫である晋一郎と、元恋人である五十嵐は、それぞれに魅力的な男性でした。まったくキャラが違うので、千勢の選択基準って…と最初いぶかってたんですが。両者ともいい男だわ~。温かく頼りがいのある五十嵐と、怜悧でキレ者で、でも他人と自らの間に一線を引く晋一郎。最初は五十嵐がわかりやすい「いい人」なのですが、話が進むにつれて徐々によさが見えてくる晋一郎の底力。選べないな~~。とか真剣に読みながら悩みましたよ。二次元、相手、二次元ですから!(←自らに言い聞かせている)

あと千勢のお父さんであるところの信三さん。この方も相当いいですよ~。
わたしおじいちゃん子だったもので、こんなおじいちゃんとお話する仕事したい!と思いましたもん。
なんだかんだで物語の中心人物である信三さん。
物語の最後あたりの言動には泣けました……ほんとにいい人だな~~。こんなお父さんいいなあ。

千勢と雪乃が似ているのは、「声」の一点だけ。
それなのに、千勢の周りの男性たちの心を癒やし、救うことができたのは、雪乃個人の「声」以外の力でした。

北回帰線の下、夏至のあらゆるものの影が消える日に、自らの影を消してみたかった千勢。
逆にこの物語のラストで、無くしていた影を取り戻した雪乃。
五十嵐すら知らない、千勢が影を消したかった理由は、ここで読者のみ知ることができます。
こういう構成の巧さにもうなりました。


また全然作品のいいところの半分も伝えられてない気がしますが。
地味に良作だと思います。雰囲気もとてもいいお話なので、よかったら読んでみてください。

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